海外勤務者の労務管理/海外出向規定を作成する際の留意点
海外出向・出張がある会社がまず準備すべきこと
海外出張規定や海外出向規定が存在する会社は規定を確認しましょう。それらの存在がない会社は規定を作成しておくのが良いでしょう。
さて、従業員を海外に派遣する前に人事労務の観点からまず考えなければならないことを以下にあげます。
- 1.目的、適用範囲、用語の定義、家族の帯同
- 2.勤務条件、休暇(一時帰国休暇、慶弔帰国休暇等)
- 3.給与
- 4.赴任・帰任旅費に関して
- 5.福利厚生 帯同子女の教育費、住宅関係、健康診断、配偶者の出産、医療費、私有自動車、労災、語学受講費用の補助等
- 6.出向期間
- 海外勤務者の給与は月の手取り収入を基準に勘案し、各手当(外地インセンティブ、ハードシップ手当)を加えて支給。
- 海外給与(月給)は、日本と外地における生計費差異を勘案して算出。
- 外地での税金、社会保険料は全額会社負担とする。
- 本人の生活費用(住宅・教育・医療)は、国や地域によって対応。
- 本人の手取給与のうち海外給与(月給)は外貨支給。内地手当(留守宅手当)と賞与は円支給を原則とし、各手当は適宜対応。日本の社会保険料は内地手当から控除。
- 将来の年金額に不利益が生じないように、社会保険料は従前の標準報酬月額を保証するのが望ましい。
- 賞与は国内社員の支給ルールに則して算出。税金相当額を控除した金額を支給金額とし、円支給する。
- 海外給与(月収手取り額)=国内基礎月収も手取り相当額 X 係数(生計費等の指数を勘案)
- 基本給に加え、家族手当や海外勤務手当、ハードシップ手当を支給するケース等様々です。
- 日本での給与(手取り金額)をそのまま海外基本給とする。
- 海外勤務に伴う追加コストを別途支給する。
- 本人の生活費用(住宅・教育・医療)は、国や地域によって対応。
- 海外基本給が円建てのため、赴任時に現地通貨に換算して海外基本給を決めておく。(為替レート変動に応じて海外基本給の額が上下してしまうため)
- 将来の年金額に不利益が生じないように、社会保険料は従前の標準報酬月額を保証するのが望ましい。
- 賞与は国内社員の支給ルールに則して算出。税金相当額を控除した金額を支給金額とし、円支給する。
- 対象子女:4歳以上の幼稚園、小中高校
- 対象費用:入学金、授業料、スクールバス代(国内でかかる授業料を超える部分に対して補助額を設定する)
- 対象期間:日本人学校、日本語補習校、現地公立校
- 入学金は標準行への納入額を限度とし実費会社負担。
- 赴任前6カ月以内:語学学校費用
- 赴任後6カ月以内:語学学校または家庭教師にかかる費用
- 家族帯同:20〜120万円(平均45〜55万円程度)
- 単身赴任 10〜70万円 (平均22〜25万円程度)
従業員の身分をどうするか考えましょう
同じ会社内での出向であれば勤務場所が一時的に変更となった『配置転換』、その期間がさらに短期であれば『出張』扱いとなります。また、海外の子会社等へ『出向』の場合は身分は元の会社のままである『在籍出向』なのか『転籍出向』なのかを決めましょう。また、役員である場合、内国役員が海外に派遣される場合は勤務場所を問わず、その報酬のすべてを国内源泉所得として課税されるべきとなっているので赴任地での課税と合わせたダブル課税になる可能性もあるため注意が必要です。
長期出張の場合 指揮命令が本国であれば期間の長さに関わらず、出張となります。社会保険は既存のままとなります。ただし、民間の海外傷害保険等に入っておいた方が良い。 |
在籍出向の場合 日本で少しだけ給与が支払われている場合→本人の厚生年金の等級が落ちる可能性がある。 給与が全額出向先負担の場合→社会保険をどうするのか?国民年金+健康保険の任意継続をさせるか。 |
転籍出向の場合 日本の社会保険関係は消滅する。本人にも説明し、理解してもらう必要があります。
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赴任先の医療事情・社会保険制度の確認・ワクチン接種
医療保険が整備されている国かどうかを確認しましょう。赴任先で医療を受ける場合はどうするか等の医療保険や年金等社会保険に関して確認しておきましょう。日本には無い伝染病等にかかる可能性があります。赴任前に確認し、必要なワクチンを接種させておく必要があります。
海外出向規定を作成しましょう
海外出向規定・出張規定があることで、海外出向者の慣れない生活に関する精神的不安等が軽減するばかりでなく、様々な事柄に対する対処方法も規定されていることで人事労務管理者の労務負担の軽減も図ることができます。
海外出向規定等で規定する項目例
海外勤務者の給与の決め方〜『購買力補償方式』と『併用方式』〜
赴任国によって生計費の水準や生活に必要なインフラの整備状況等が異なることを考慮しなければならなりません。
ここでは、2011年現在約8割以上の会社が採用している”購買力補償方式”と主に中小企業が採用している”併用方式”と呼ばれる考え方でお給与を決定していく方法を御紹介いたします。
購買力補償方式とは
最も一般的な方式。現地生計費を海外基本給とする考え方。
当該海外勤務労働者が現地の生活を送る際に、日本と同等の生活水準を保証できるようにします。
従って外貨建ての支給が一般的な支給方法です。
必要以上の金額を外貨で支給することは労働者に為替のリスクを負わせることにもなるため、それ以上は円建てとします。
併用方式とは
日本勤務時の基本給をそのまま現地の基本給とする考え方。
外国で働くということは国内勤務と比べその分費用が多く発生するのでその分を別途手当として加算する方法です。
その他の手当・諸費用に関して
住宅手当@定額の住宅手当を支給 A上限家賃の範囲内で会社が実費を負担 B上限を定めず実費全額を会社が負担(選択の余地が無い場合)C社宅の提供 『安心して住める地域』を選択 |
帯同子女の教育費最低限必要となる費用(公立学校の入学金&授業料)は本人負担。別途会社が負担する費用の範囲は以下の通り。 |
語学受講費用の補助 例)出向者及び帯同家族が任地での業務・生活上必要な語学を自己啓発で習得する場合、会社がその費用を負担。 |
赴任支度料・帰任支度料
モデル支度水準 【ニューヨーク】 |
荷物運送料(引越料)・トランクルーム費用等 上限を設定する。そうでないと、ピアノや車まで持って行こうとする。トランクルームは会社の指定。 |